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東京地方裁判所 平成元年(ワ)9971号 判決

東京都大田区東糀谷二丁目一四番三号

原告

株式会社ディスコ

右代表者代表取締役

関家憲一

右訴訟代理人弁護士

本間崇

吉沢敬夫

右輔佐人弁理士

秋元輝雄

東京都港区港南三丁目五番一六号

被告

芝山機械株式会社

右代表者代表取締役

石村吉男

右訴訟代理人弁護士

中嶋正博

林茂夫

右輔佐人弁理士

志村正和

主文

一  被告は、別紙物件目録(一)、(二)記載の各装置を製造し、譲渡し、貸渡し譲渡若しくは貸渡しのために展示し、又は輸入してはならない。

二  被告は、原告に対し、金五〇〇万円、及びこれに対する平成五年一一月五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  主文第一項と同旨

二  被告は、原告に対し、金一五〇〇万円およびこれに対する平成五年一一月五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が別紙特許権目録記載の特許権(本件特許権)を有しているところ、被告が別紙物件目録(一)、(二)記載の各装置(被告装置)を製造等した行為が本件特許権を侵害(間接侵害)するものであると主張して、原告が、被告に対して、本件特許権に基づき、被告装置の製造等の差止め及び本件発明の実施に際し通常受けるべき金額(通常実施料相当損害金)の支払いを求めた事案である。

二  争いのない事実

1  原告が、本件特許権を有していること。

2  本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(本件明細書)の特許請求の範囲は、本判決添付の特許公報(本件公報)の該当項記載のとおりであること。

3  本件発明の構成要件は、次のとおりであること(以下、左の構成要件(一)を単に「要件(一)」ということとし、他の要件についても同様に表示する。)。

(一) 載台の上面と略同一形状の薄板状被載置物をその面積の少なくとも半分以上が該載置台に載るように載置し、

(二) 該被載置物の載置と同時に或いはその前又は後に、該載台の上面のほぼ全面にわたって液体の層を生成するのに充分な量の液体を供給して該載台の上面及び該被載置物の下面に付着する液体の層を生成し、

(三) 該液体の表面張力によって該被載置物を該載台の上面の実質上中心位置に移動せしめる、

(四) 以上を特徴とする位置合せ載置方法。

4  被告が、被告装置を備えた精密研削盤を一台当たり四〇〇〇万円で、合計二五台販売したこと。

5  被告装置が、別紙物件目録(一)、(二)記載のとおりであること。

三  争点

1  本件における主たる争点は、次の(一)ないし(三)のとおりであり、右各争点に関する当事者双方の主張の要旨は、以下の2ないし4のとおりである(以下、被告装置に関する番号・記号は別紙物件目録(一)、(二)各記載のものを指す。)。

(一) 被告装置の仮受け台における被載置物の載置方法(以下「被告装置の載置方法」という。)が本件発明の技術的範囲に属するか否か。

(特に、被告装置が、仮受け台の表面に形成された水の層の表面張力により被載置物の中心位置合せを目的とするものであるか否か。)

(二) 被告装置が本件発明にかかる位置合せ載置方法の実施にのみ使用されるものであるか否か。

(特に、被告装置が、仮受け台における被載置物の洗浄機能を有するか否か。)

(三) 原告の被った損害の額。

2  被告装置の載置方法が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて

(一) 原告の主張

被告装置の構成及び動作は別紙物件目録(一)、(二)記載のとおりであるところ、これと本件発明の要件とを対比すると、以下のとおりである。

(1) 要件(一)との対比

別紙物件目録(一)、(二)の「二、動作の説明」の〈4〉、〈5〉の記載の動作においては、仮受け台7の上面とほぼ同一形状のシリコンウエハ1が仮受け台7の表面にその中心が合致するように載せられ、水の層の上を浮遊するから、その面積の大部分が仮受け台7の上に載るように載置されることになり、被告装置の載置方法は要件(一)を充足する。

(2) 要件(二)との対比

同目録(一)、(二)の「二、動作の説明」の〈3〉記載の動作にあっては、シリコンウエハ1の載置に先立って、仮受け台7の上面に設けられた水供給孔8から、仮受け台の上表面の全体にわたって水の層を形成するに充分な量の水を常時供給して、仮受け台7の上面及びシリコンウエハ1の下面に付着する水の層9を生成する。

他方、要件(二)の「該被載置物の載置と同時に或いはその前又は後に、・・・するのに充分な量の液体を供給して・・・液体の層を生成し、」の記載は、載置する前から水が供給され続けている場合を含むことは勿論であり、また、被告装置では、水の層は、載置の前も、載置と同時にも後にも生成されているのであって、このように常時供給されている水によって仮受け台の表面に水の層が形成されている場合も、本件発明と同一の目的が達成されるのであるから、被告装置の載置方法は要件(二)を充足する。

被告は、本件発明における載台に形成される液体の層は「静止液体層」に限定され、常に溢れて動いている層や、流れ落ちる水は含まれない旨主張するが、本件特許請求の範囲の「・・・と同時に或いはその前又は後に・・・充分な量の液体を供給して・・・」(要件(二))において、静止した液体の層の表面張力の場合に本件発明の技術的範囲が限定されると解釈する根拠は全くないのみならず、本件明細書の発明の詳細な説明には、被告装置のように、常時供給される水によって形成される水の層9があり、それが仮受け台か周縁から流れ落ちる場合があることを予想している記載がある(本件公報3欄40行~4欄3行)から、本件発明は、液体の供給時期が載置と「同時」であろうと、「その前」であろうと、又は「後」であろうと、何ら限定されることはないのである。

なお、仮受け台上の水の層が静止した水の層であろうと常に溢れていて動いている層であろうと、表面張力の利用に差が出ることはない。

(3) 要件(三)、(四)との対比

同目録(一)、(二)の「二、動作の説明」の〈6〉記載の動作にあっては、シリコンウエハ1の中心位置が万一、同目録(一)の第三図(1)、(3)に示すようにずれていても、水の層9の表面張力によってシリコンウエハ1を仮受け台7の上面の実質的な中心位置に移動させるから、被告装置の載置方法は要件(三)、(四)を充足する。

被告は、被告装置の仮受け台においては、ウエハ搬送ベルトのストッパー配置位置で停止したウエハは、反転アームによって一八〇度回転し、一旦、仮受け台と中心を合致させて載せられるから、どこかに何らかの故障がない限り、ウエハは、機械的に仮受け台に中心を合致して載置されるのであって、仮受け台に形成された水の層の表面張力によりウエハの中心位置合せが行われるものではないと主張する。

しかし、シリコンウエハ1の中心とチャックテーブルの中心とが合致していないと、次の〈1〉ないし〈4〉のような障害が起こるから、被告装置においても、シリコンウエハ1の中心位置合せが必要なのである。

〈1〉 バキュームチャックの吸着面は、直径の異なるものが同心円状に嵌装されており、載置されるシリコンウエハ1の径に応じてテーブルの各径毎のバキュームが切り換えられるようになっている。したがって、シリコンウエハ1の中心位置がチャックテーブルとずれて置かれると、ずれて露出した面から外気が吸引されてバキュームチャックの吸引力が低下し、シリコンウエハ1がチャックテーブルから離脱する恐れがある。

〈2〉 ずれて露出したテーブルの面の吸引孔から研削屑が吸引されて、目詰まりを起こし、チャックテーブルの吸引力を低下させて、右〈1〉と同様の結果となる。

〈3〉 研削中心から外側にいくにつれて研削面は荒くなるから、シリコンウエハ1の中心がずれて置かれると、均一な研削ができず、極端に荒い研削面ができてしまう。シリコンウエハ1の品質の安定を図るためにも、チャックテーブルの中心とシリコンウエハ1の中心とが合致していることが必要である。

〈4〉 〈3〉の荒く仕上がった研削面における研削痕(ソーマーク)は、肉眼で見ることができ、ユーザーは、目視により研削状態を評価できるから、中心位置がずれて研削されたシリコンウエハ1は、中心から外側に万遍なくソーマークが形成されておらず、見栄えが悪く商品としての評価を落とすことになる。

他方、機械的中心位置合せの成否は、製品の各部分の精度に依存しているところ、被告装置のストッパーと反転アームの構成は余り精度が高くないから、ストッパー配置位置から、反転アームにより一旦仮受け台に載置するウエハの位置は、正確に中心位置が合っていない蓋然性が高い。従って、最終的にチャックテーブルに中心のあった状態で載置するためには、その前に、一旦、仮受け台においてそこに水の層を形成して、本件発明にいわゆる水の表面張力を利用した中心位置合せを行う必要がある。

しかも、被告装置においては、シリコンウエハ1は、ある程度の勢いをもって反転アームによって水面上に載せられるのであるから、工業的生産的規模で考えれば、仮り受け台7の中心とシリコンウエハ1の中心とがピッタリ一致して載せられるということはむしろ少ないというべきであるから、被告装置は、工業生産規模で作動するとき、反転アーム6によって仮受け台7の上方まで搬送されたウエハ1がその裏面を上にして仮受け台7の表面に形成された水の層に載せられた際、往々にして仮受け台7の中心とウエハ1の中心がずれて載せられることがあるが、その場合でも、水の層9の表面張力によって中心位置合せが行われることを目的としているのである。

また、被告装置のチャックテーブルでは、水の層を形成することによる本件発明にいう中心位置合せが不可能である。すなわち、被告装置においては、仮受け台に一旦ウエハを載置した後、仮受け台とチャックテーブルを配したターンテーブルの中間に配置した移送マットによって弧状に旋回してチャックテーブルに機械的に中心を合致して移送されるが、チャックテーブルで中心位置合せのために水の層を形成しようとしても、水の層はチャックテーブルの表面全部を覆うから、小径のウエハは浮遊して中心が定まらなくなるから、やむを得ず、仮受け台からチャックテーブルに移送するまでの両者の位置関係、弧状に旋回する移送手段等の構造を特に精度の高いものとして、仮受け台において実現されている中心の合った状態でそのまま、チャックテーブルに正確に中心のあったままの状態で移送する手段が取られている。

被告の主張のように、中心位置合せが機械的に行われ、水の表面張力を利用しないのであるならば、被告装置において水の層を形成する必要はない筈である。

(4) 作用効果の対比

被告装置においては、仮受け台7とシリコンウエハ1の間に、水の層9を形成することにより、その表面張力を利用してシリコンウエハ1を自動的に仮受け台7の中心位置に載置でき、かつ、シリコンウエハ1に傷がつくのを防止できるから、本件発明と同一の作用効果を奏する。

(5) 総括

以上のとおり、被告装置は、要件(一)ないし(三)を充足することを特徴とする位置合せ載置方法を実施するものであり、かつ、被告装置は、本件発明の技術的範囲に含まれる方法の実施にのみ使用するものであって、それ以外の用途に用い得るものではない。したがって、被告が被告装置を業として製造販売し、また販売のために展示する行為は、本件特許権を侵害するものとみなされる行為である(特許法第一〇一条)。

(二) 被告の主張

(1) 本件発明の技術的範囲の解釈について

本件発明は、特公昭四七-四三八六三号の特許公報(乙第四号証)記載の発明と発明思想を同じくするものであって、特許としての登録要件を欠き、無効とされるべきものである。すなわち、右発明は、昭和四七年一一月六日に公告され、その解決課題は、ウエハの加工を施す保持具に、ウエハを吸着し、それによって正確な位置決めを行い、かつ着脱作業が容易な保持方法を提供しようとするものであるが、本件発明は、載台に液体層を形成し、その液体の表面張力を利用して、被載置物であるウエハを載台の中心位置に載置せしめる位置合せ方法であるから、いずれも、水(液体)の表面張力を利用して、ウエハを載台あるいは吸着台の正確な位置に載置する方法の発明であって、解決課題を同じくするものである。したがって、本件発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の文言どおり、厳格に解釈されるべきである。

(2) 本件特許発明と被告装置の仮受け台とが解決課題を異にしていることについて。

本件特許発明は、載台に形成した水の層の表面張力を利用してウエハの中心位置合せを行う方法である。本件特許発明の載台とは、どのようなものをいうのか特許請求の範囲には記載がないが、明細書の記載からウエハの研削加工を行う作業台を指すことは明らかである。

これに対して、被告装置の仮受け台は、型式を異にするが、両者ともウエハは反転アームによって仮受け台の中心に合致して載せられ、仮受け台に形成した水の層によって仮受け台に中心を合致して載せられたウエハの洗浄を行う台であって、ウエハを研削する加工台ではない。

よって、両者は、解決課題を異にする。

(3) 被告装置の載置方法と要件(一)の対比について

被告装置において、仮受け台にウエハが中心を合致して載せられることは事実であるが、右は、後記のとおり、機械的に載置されるのであって、仮受け台に形成された水の層の表面張力によって中心位置合せが行われるものではなく、被載置物がその面積の半分以上仮受け台に載るよう載置される必要もないのみならず、被告装置の仮受け台は、被載置物たるウエハと同一の形状ではないから、本件方法は、要件(一)を充足しない。

(4) 被告装置の載置方法と要件(二)の対比について

本件発明における載台に供給される水は、ウエハの中心位置合せをする水であって、その供給時期はウエハ載置と同時或いはその前又は後であって載台のほぼ全体にわたって水の層を形成するのに充分な水であるから、右仮受け台に対する水の供給の仕方と同じということはあり得ないし、仮受け台に形成される水の層とも異なる。すなわち、本件発明における載台に形成される液体の層は「静止液体層」であると解すべきである。

これに対して、被告装置の仮受け台に供給される水は、ウエハを洗浄する水であって、常時万遍なく供給され、仮受け台の周縁から流れ落ちるものであり、「流動層」である。また、仮受け台に形成される水の層は、ウエハの下面と仮受け台の間から流れ落ちる水であって、仮受け台の上面とウエハの下面に付着する水の層ではない。

よって、被告装置の載置方法は、本件発明の要件(二)を充足しない。

(5) 被告装置の載置方法と要件(三)、(四)の対比について

被告装置の仮受け台は、水の層を形成すると否とにかかわらず、ウエハが機械的に中心を合致して反転載置される構成となっているから、本件発明の要件(三)、(四)を充足しない。

すなわち、被告の精密研削装置に配された仮受け台及びその他の各機構の配置関係は、別紙物件目録の添付図面第1図、第2図、第4図に記載されているとおりであるから、被告の精密研削装置を作動させるときには、搬送ベルトのストッパー位置で停止したウエハは、反転アームによって必ず機械的に仮受け台と中心を合致して、仮受け台上に形成された水の層に圧縮して反転載置される構造になっており、ウエハの中心が仮受け台の中心とずれて載せられることは、特別の故障でもない限り、絶対にない。

なお、原告は、被告装置の仮受け台に、ウエハが中心を合致して載せられた瞬間に、仮受け台に形成された水の層の面でウエハがふらついて中心がずれる場合がある旨主張するが、別紙物件目録の作動の説明〈4〉、〈5〉に示した状態で水の層が形成されている仮受け台に、ウエハが中心を合致して載せられたときには、水をはね飛ばして載置する瞬間に、水の層の面とウエハの面に水の表面張力が働き、ウエハは仮受け台に中心を合致して静止し、仮受け台に形成された水の層の面でウエハはふらついたりはしないのである。

3  被告装置が本件発明にかかる位置合せ載置方法の実施にのみ使用されるものであるか否かについて

(一) 原告の主張

被告装置が仮受け台の上の水の層にウエハを置くことによって、水の層の表面張力により中心位置合せが行われることを目的としていることは、既に述べたとおりである。

この点に関し、被告は、仮受け台の上の水の層にウエハを置くことによって、仮受け台の上における水の流動層によるウエハの洗浄効果がある旨主張するが、被告の右主張事実は立証されていないどころか、仮受け台上の水の流動層による洗浄効果は全く期待できないのである。すなわち、ウエハをいかに強く置いても、被告装置の仮受け台における水の流動層の力だけではウエハの表面に付いた極微粒子を洗浄によって除去することはできない。そもそも、ウエハに付着するミクロン単位の微細なゴミは自重では落下せず、ウエハ面に付着したまま水につけると水の粘着力によってウエハ表面により強く付着してしまう。これらのゴミは、超音波併用又はブラシで擦らないと落ちないといわれており、被告主張のように、本件装置の仮受け台上に形成された水の流動層の表面に載せられたウエハを移転アームによって水の流動層の面から横すべりさせながら離脱させるだけでは到底これらのミクロン単位の微細なゴミは落ちるものではない。

結局、本件装置の仮受け台の水の層が専らウエハの洗浄効果を狙ったものであるとする被告の主張は後からの思いつきに過ぎない。

(二) 被告の主張

(1) 被告装置の仮受け台は、ウエハの反転台としての機能と、ウエハの洗浄機能を発揮する装置として特に開発設計されたものであって、別紙物件目録記載のとおりの操作によって、反転アームによりウエハを反転するとともに、仮受け台に形成される水の層により、ウエハの洗浄を行うものである。その理論的根拠を別紙参考図によって示すと、以下のとおりである。

すなわち、仮受け台の中央部に水供給機構が配置され(別紙参考図の図1)、該水供給機構からは水が万遍なく環状壁周縁に向かって流れ、仮受け台は中央部の水供給機構から水がポンプによって供給され、水が常時盛り上がって湧き出ており(同参考図の図2)、仮受け台の中央部から湧き出た水は、万遍なく仮受け台の周縁に向かって波紋を描いて流れ、その下層の流れは環状壁にぶつかってこれを乗り越えるため盛り上がり状態となって環状壁の周縁から流れ落ちる(同参考図の図2)。右状態で流れる水の流れは、水の層の上層側の流速は早く、仮受け台面側に近くなるほどその流速は遅くなり(同参考図の図2)、また、右状態で流れる水の層の面にウエハを静止した状態で載せると、水の層に接するウエハ面を水が洗い流すように流れる(同参考図の図3)。そのうえ、右状態で流れる水の層の面に、反転アームによってウエハを載せると、仮受け台面を流れる水の層は瞬間的に圧縮されるが(同参考図の図3)、この圧縮された水の層は、もともとポンプによって常時供給されて仮受け台に湧き出ているから、その湧き出し力に対抗してウエハ表面からかかる圧縮力によって、ウエハの裏面に接して流れる水の上層側の流速は加速され、かつ、強い力を受けて勢い良くウエハと仮受け台の周縁の間から、あたかも水鉄砲のように噴射される。その結果、ウエハの裏面に極微粉末が毛細管現象によって付着したとしても、その極微粉末は、同参考図の図3-2に図示された状態でウエハの裏面を勢いよく接して流れる水によって押し流されることになる。

また、反転アームの押圧力が解除されたときは、ポンプによって常時湧き出し力を受けて仮受け台に供給される水の層の面に、同参考図の図4に示す状態で、ウエハは仮受け台の面を流れる水の層の面に浮上する。この水の層の面に浮上したウエハに対し、移送アームがチャックテーブルに移送するためウエハを押圧吸着するとき、再び、前述したところと同様に、同図3の2に示す状態と同じ状態を引き起こす。これを横すべりさせてチャックテーブルに移送させるが、このとき、水の上層側の流速が加速され、かつ、強い力を受けて勢い良く噴射する現象を起こす。仮受け台は、右現象を生じさせる機構を備えたもので、ウエハの洗浄機能を果たすものとして設計されたものである。

右のように、仮受け台は、ウエハを洗浄するためのものであって、チャックテーブルでウエハを研削するための前操作として、ウエハを仮受け台と中心を合致させる必要はないのである。

(2) 原告は、チャックテーブルでのウエハ研削には、ウエハの中心をチャックテーブルの中心に合致させて配置しなければならない旨主張するが、ウエハがチャックテーブルと中心を合致して載せられないで研削操作が行われても、その場合には、その研削軌跡の中心がウエハの中心から片寄ったところに位置して研削されるだけであり、その製品価値には何ら変わりがないから、ウエハ研削に当たって、ウエハを仮受け台あるいは、チャックテーブルに中心合せをする必要はない。

4  原告の被った損害額について

(一) 原告の主張

原告は、被告の故意若しくは少なくとも過失による特許権侵害行為によって次のような損害を被った。

被告が販売した被告装置を含む精密研削盤の販売価格は、一台当たり平均金四〇〇〇万円であり、精密研削盤全体の価格に対し被告装置の占める価格の割合は三〇パーセント相当であるので、被告装置の価格は一台当たり金一二〇〇万円である。

そして、本件特許発明の実施料は、右価格の五パーセントが相当であるから、被告が製造販売した被告装置一台当たりの実施料は金六〇万円と算定される

被告が昭和五九年ころから、最近までに販売した右装置の台数は少なくとも二五台であるので、原告は実施料相当額として合計金一五〇〇万円の損害を被った。

(二) 被告の主張

被告装置の価格は、精密研削盤全体の価格の〇・四パーセント相当であるから、一台当たりせいぜい一六万円であって、原告主張のように、被告装置一台当たりの価格が一二〇〇万円などということはありえない。

第三  争点に対する判断

一  争点1(一)(被告装置の載置方法が本件発明の技術的範囲に属するか否か。)に対する判断

1  「載台の上面と略同一形状の薄板状被載置物をその面積の少なくとも半分以上が該載置台上に載るように載置し、」との要件(一)を充足するか否かについて判断する。

(一) まず「略同一形状」について検討することとする。

「略同一形状」は、本件明細書の特許請求の範囲においては、「載台の上面と略同一形状の薄板状被載置物」と記載され、載台の上面と薄板状被載置物とが、大きさのみならず、形状まで略同一でなければならないか否かについて必ずしも明らかではない。そこで、本件明細書の発明の詳細な説明をみると、「載台上面の同等かまたはやや小さい面積を有する薄板状の被載置物」(公報2欄13ないし15行)と記載され、実施例に関して「被載置物としての薄い円板状の未研削のウエハ、9をその面積の少なくとも半分以上が載台3上に載るように載置する。」(公報3欄26ないし29行)等の記載と記載されているから、被載置物の大きさがこのような大きさであれば、表面張力による中心位置合せができるとしているものと考えられ、これに、本件明細書には、他に形状についてまで同一でなければならない旨の記載が全くないことを合わせて考えると、本件発明にいう「略同一形状」は、載台と被載置物の形状が略同一でなくとも、その大きさが略同一であるものを指していると認められる。

そして、被告装置を示すものとして当事者間に争いのない別紙物件目録(一)、(二)によると、「仮り受け台7の上面は、載置物であるウエハ1とほぼ同一の円形状であり、その直径はウエハ1の直径よりやや大となっている。」(別紙物件目録(一)、(二)の各一項)というのであるから、被告装置において、ウエハ(被載置物)の大きさと仮受け台(載台)の大きさとはほぼ同一であるものと認められるから、本件発明の「略同一形状」に該当するものというべきである。

(二) 次に、本件明細書の特許請求の範囲には、「その面積の少なくとも半分以上が該載置台上に載るように載置し、」と記載されているところ、被告装置においては、被告装置を示すものとして争いがない別紙物件目録(一)によれば、「載せられたウエハ1は、仮り受け台7の表面にその中心が合致するように載り、」(同目録(一)の二項〈5〉)というのであり、同じく別紙物件目録(二)によれば、「放されたウエハ1は、仮り受け台7の表面にその中心が合致するように載り、」(同目録(二)の二項〈5〉)というのであり、前示のとおり、被告装置のウエハ(被載置物)の大きさと仮受け台(載台)の大きさとはほぼ同一であることに照らして考えると、ウエハ(被載置物)の少なくとも半分以上が仮受け台に載せられるものであることは明らかである。したがって、被告装置は本件発明の「その面積の少なくとも半分以上が該載台に載るように載置」との要件に該当するものというべきである。以上のとおりであるから、被告装置の載置方法は要件(一)を充足する。

2  次に、被告装置の載置方法が「該載置物の載置と同時に或いはその前又は後に該載台の上面のほぼ全体にわたって液体の層を形成するに充分な量の液体を供給して該載台の上面及び該被載置物の下面に付着する液体の層を生成し」との要件(二)を充足するか否かについて判断する。

(一) まず、液体の供給時期について検討するに、本件明細書の特許請求の範囲には、液体の供給時期に関して「該載置物の載置と同時に或いはその前又は後に・・・・液体を供給して」と記載されているから、液体の供給は、被載置物の載置の前後を問わず、何時の時点であってもよいとしているものと認められる。

これを被告装置についてみると、被告装置を示すものとして争いのない別紙物件目録(一)によれば、「仮り受け台7の上面に設けられた水供給孔8から水が仮り受け台7の上表面に常時供給され」(同目録(一)の二項〈3〉)、同じく別紙物件目録(二)によれば、「仮り受け台7の水導管11から導入された水は、常時中盤13の窪部3Aから送水孔3Bを通って、受盤12の環状壁2Bと中盤13外周面の隙間14から環状壁2Bで区画された内側洗浄槽3Cに供給されて内側洗浄槽3Cに溜る。この水は常時供給されており、」

(同目録(二)の二項〈3〉)というのであるから、被告装置においては、仮受け台の上面に常時水が供給されているものと認められ、したがって、被載置物の載置の前に水を供給しているものということができるから、本件発明の「該載置物の載置と同時に或いはその前又は後に・・・液体を供給して」に該当するものというべきである。

(二) 次に、液体の量について検討するに、本件明細書の特許請求の範囲には、液体の量に関して「載台の上面のほぼ全体にわたって液体の層を形成するに充分な量の液体を供給して該載台の上面及び該被載置物の下面に付着する液体の層を生成し」と記載されており、そこでは、被載置物が載台の上面と接触しない程度の深さの液体の層を形成し、載台の上面のほぼ全体にわたって液体の表面張力を発現するのに足りる量の液体を要するものと認められる。

この点に関し、被告装置においては、被告装置を示すものとして争いのない別紙物件目録(一)によれば、水が、前記のとおり、仮り受け台の上表面に常時供給され、「該上表面からは常時仮り受け台周縁から流れ落ちる水の層9を形成している。」(同目録(一)の二項〈3〉)、「載せられたウエハ1は、・・・常時供給される水によって形成される水の層9の上に浮遊する。」(同二項〈5〉)とあり、同じく別紙物件目録(二)によれば、「この水は常時供給されており、仮り受け台7の外壁15の環状外壁5Aからは常時流れ落ちる水の層9を形成している。」(同目録(二)の二項〈3〉)、「放されたウエハ1は、・・・常時供給される水によって形成される水の層9の上に浮遊する。」(同二項〈5〉)というのであるから、被告装置においても、仮り受け台の上面に、常時供給される水によって水の層が形成され、その上に載せられたウエハがその層の上を浮遊し、水の表面張力が発現されていることが認められるから、被告装置が、本件発明の「載台の上面のほぼ全体にわたって液体の層を形成するに充分な量の液体を供給して該載台の上面及び該被載置物の下面に付着する液体の層を生成し」との要件に該当するものというべきである。

(三) 被告は、本件特許発明の場合の水の層は「静止層」であるところ、被告装置の場合の水の層は「流動層」であるから、要件(二)を充足しない旨主張するが、本件明細書の特許請求の範囲には、液体の層が「流動層」であるか「静止層」であるか明確に区別した記載はなく、発明の詳細な説明にも、液体の層が「流動層」か「静止層」かのいずれかを窺わせるような明確な記載はなんら存在しないことに照らして考えると、本件発明においては、載台の上面のほぼ全体にわたって液体の表面張力を発現するのに充分な量の液体の層が形成されれば足りるのであって、その層が「流動層」であろうと、「静止層」であろうと、本件発明の技術的範囲の属否に影響はないものというべきであるから、被告の右主張は理由がない。

(四) 以上のとおりであるから、被告装置の載置方法は、本件発明の要件の(二)を充足するものというべきである。

3  更に、「該液体の表面張力によって該被載置物を該載台の上面の実質上中心位置に移動せしめる」との要件(三)、及び「位置合せ載置方法」との要件(四)を充足するか否かについて(被告装置が中心位置合せ機能を有しているか否かについて)、判断する。

本件明細書の特許請求の範囲には、「該液体の表面張力によって該被載置物を該載台の上面の実質上中心位置に移動せしめる、」と記載され、これに引き続いて「ことを特徴とする位置合せ載置方法」との記載があるから、本件発明による位置合せ載置方法が、液体の表面張力により、被載置物の中心合せをする機能を有するものであることが明らかである。

他方、被告装置を示すものとして争いのない別紙物件目録(一)によれば、「反転アーム6によって仮り受け台7の上方まで搬送されたウエハ1は、その裏面を上にして仮り受け台7の表面に形成してある水の層9を圧縮して、水の層の水をはね飛ばして仮受け台面に押圧状態で載せられる。」(同目録(一)の二〈4〉)、「載せられたウエハ1は、仮り受け台7の表面にその中心が合致するように載り、常時供給される水によって形成される水の層9の上に浮遊する。」(同二〈5〉)、「このときウエハ1の中心位置が、万一仮り受け台7の中心位置とずれていても、仮受け台周縁から流れ落ちる水の層9の表面張力によって水の流れに従って・・・ウエハ1はその中心位置が仮り受け台7のほぼ中心位置になるように移動して水の層の面に浮遊する。」(同二〈6〉)というのであり、同じく別紙物件目録(二)によれば、「反転アーム6によって仮り受け台7の上方まで搬送されたウエハ1は、その裏面を上にして仮り受け台7の表面に形成してある水の層9を圧縮して、水の層の水をはね飛ばして仮受け台面上に押圧状態で載せられる。」(同目録(二)の二〈4〉)、「放されたウエハ1は、仮り受け台7の表面にその中心が合致するように載り、常時供給される水によって形成される水の層9の上に浮遊する。」(同二〈5〉)、「このときウエハ1の中心位置が、万一仮り受け台7の中心位置とずれていても、仮受け台に形成された仮受け台の外壁15の環状外壁五Aから常時流れ落ちる水の層9の表面張力によって、水の流れに従ってウエハ1はその中心位置が仮り受け台7のほぼ中心位置になるように移動して水の層の面に浮遊する。」(同二〈6〉)というのであるから、被告装置においては、ウエハはいったんは仮り受け台の表面にその中心が合致するように載せられるものではあるが、その後常時供給される水の勢い等により、ウエハが水面を浮遊し、中心位置がずれることがありうること、そのような場合でも、その後常時供給される水によって形成される水の層の表面張力によって、ウエハの中心位置が仮り受け台のほぼ中心位置になるように移動して水の層の面に浮遊することが認められる。これに加えて、成立に争いのない甲第七号証、乙第二号証、第三号証の一、二、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第五、第六号証、並びに弁論の全趣旨によれば、(1)被告装置の場合、ウエハは、仮り受け台面上の水の上にその中心が合致するように載せられるが、次の工程に進むため、反転アームのウエハに対する吸引保持が解除され、ウエハが反転アームから離れたときには、水が常時供給されていることから、水の勢い等によって、ウエハが一時的に仮受け台の中心からずれてしまうことがありうること、(2)被告装置を含む精密研削盤の場合、仮り受け台に反転アームによって搬送されたウエハは、その後、スウィングアームによってローディングステーションのセラミックバキュームチャックに搬送吸着される構造を有していること、(3)バキュームチャックは同心円上に嵌装されており、ウエハの径に応じて切り替えられること、したがって、ウエハの中心がずれて置かれると、チャックの吸引力が低下し、ウエハが仮受け台から離脱するおそれがあること、(4)したがって、次の工程においては、セラミックバキュームチャックにウエハをその中心を合わせて載置する必要があり、ウエハを仮受け台の中心に位置合せしておく必要があること、(5)被告装置においては、ウエハが仮り受け台上の水の層の上に浮遊する際に、水の表面張力によって中心の位置合せが行われることによって中心位置合せの目的を達成していること、(6)一九八六(昭和六一年)年一二月、及び一九八八(昭和六三年)一一月に各開催された東京国際見本市会場において、原告の社員が、展示されていた被告装置(SVG-五〇二)について、説明技術員として待機していた被告社員に質問し、同社員がこれに対して、セラミックバキュームチャックにウエハを載置するに際して、チャックの中心にウエハを位置合せする必要がある旨を答えたこと(なお、被告は、甲第五、第六号証に関し、被告社員の応答が誘導尋問によってなされた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠は全くない。)、以上の事実が認められる。

右認定の事実によれば、被告装置が、水の表面張力により、ウエハを仮受け台の中心に位置合せする機能があることは明らかであるから、被告装置の載置方法が、本件発明の「該液体の表面張力によって該被載置物を該載台の上面の実質上中心位置に移動せしめる」との要件(三)、及び「位置合せ載置方法」との要件(四)を充足するものというべきである。

被告は、被告装置においては、ウエハは反転アームによって機械的に仮受け台と中心を合致させて載せられるから、仮受け台に形成された水の層によりウエハの中心位置合せをする必要もなく、そのような中心位置合せはしていない旨主張するが、右に認定した事実並びに前掲各証拠に照らし、被告の右主張は採用することができず、被告装置において、ウエハと仮受け台の中心を合致させるような別の調製手段が存することを認めるに足りる証拠もない。

4  なお、被告は、本件発明と被告装置の仮受け台とが解決課題を異にする旨主張するが、本件発明と被告装置の仮受け台とが中心位置合せという共通の課題を解決するものであることは、既に判示したところから明らかであるから、被告の右主張は失当である。

また、被告は、本件発明は、特公昭四七-四三八六三号の特許公報(乙第四号証)記載の発明と発明思想を同じくするものであって、特許としての登録要件を欠き、無効とされるべきものであるから、本特許請求の範囲の文言どおりに厳格に解すべきである旨主張するが、本件においては、次のとおり、被告の右主張はその前提を欠き、到底認められないから、いずれにしても、被告の右主張は理由がないことは明らかである。すなわち、成立に争いのない乙第四号証によれば、同号証に開示されている発明は、液体の表面張力及び密着力によりウエハを吸着台に固着せしめるものであり、液体の表面張力によって被載置物を載台の上面の中心位置に移動せしめ、被載置物の中心位置合せを行うことを目的としているものではなく、また、本件発明におけるような被載置物の載置の仕方や液体の供給の仕方に関する要件についても何ら触れるところがなく、これを示唆する記載もないから、なるほど、表面張力を利用する点において、本件発明と共通するところがないではないものの、本件発明とは技術的内容を異にするものであり、本件発明は、乙第四号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるともいうことができないから、被告の右主張は、その前提を欠き、失当である。

5  以上のとおりであるから、被告装置の載置方法は、本件発明の要件(一)ないし(四)をすべて充足するから、被告装置の使用は、本件特許発明を実施するものというべきである。

二  争点1(二)(被告装置が本件発明にかかる位置合せ載置方法の実施にのみ使用されるものであるか否か。)について、判断する。

先に認定した事実に加えて、前掲乙第二号証、第三号証の一、二、成立に争いのない甲第二号証、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第八、第九号証、第一二ないし第一四号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、(1)被告装置の仮受け台は、ウエハの中心位置合せ機能を有するとともに、右中心位置合せを目的とし、右機能ないし目的以外の他の機能ないし目的を見出しえないこと、(2)本件発明においては、「被載置物の載置と同時に或いはその前または後に、載台の上面のほぼ全体にわたって液体の層を生成するに充分な量の液体を供給する」構成を採用し、液体の量及び強さに関してなんら限定していないのであって、右液体もしくは液体の流れがあることから生じる程度の洗浄機能は当然にありうること、(3)しかし、右の程度の洗浄機能はあくまで付随的なものにすぎないこと、以上の事実が認められ、右認定の事実によれば、被告装置の仮受け台は本件発明にかかる位置合せ載置方法の実施にのみ使用される物であるということができる。

この点に関し、被告は、被告装置の仮受け台が洗浄機能を有している旨主張するが、被告装置を示すものとして争いのない別紙物件目録(一)、(二)によれば、被告装置には、例えば、汚れがひどいため水の量や強さを変える等の、ウエハの洗浄を行うための特別の装置が存在しないことが認められるから、被告装置の仮受け台においては、ウエハの洗浄効果があるとしても、右効果は単に水の流れがあることによりウエハに付着した汚染物が除去されうる程度のものであり、したがって、被告装置の洗浄機能は付随的なものであるにすぎないものであることが窺われ、右事実に照らして考えると、被告の右主張は採用することができない。

もっとも、被告は、右主張に沿う証拠として、乙第八号証の一ないし四、第一一号証の一ないし七、第一二号証等を提出するが、右各証拠のみでは、被告装置の仮受け台が、水の流れに付随的に伴う洗浄効果以上の、実質的に意義のある程度の洗浄効果を有することを認めることはできず、他に、被告の右主張を認あるに足りる証拠はない。

また、本件記録を精査しても、他に、被告装置の仮受け台の他の機能ないし目的を見出すことはできない。

以上のとおり、被告装置の使用は、本件特許発明を間接に侵害するものと認められ、かかる侵害行為は、特許法第一〇三条により、過失があったものと推定されるところ、これを覆すに足りる立証はないから、被告には原告が被告の特許権侵害行為により受けた損害を損害賠償すべき責任がある。

三  そこで、争点1(三)(原告の被った損害の額)について検討する。

1  被告が、被告装置を備えた精密研削盤を合計二五台販売したこと、及び、同精密研削盤の一台当たりの販売価額が四〇〇〇万円であることは当事者間に争いがない。

2  原告は、被告装置の価格が精密研削盤全体の価格の三〇パーセントに当たる旨主張しているので、まず検討する。

先に認定した事実に加え、前掲甲第五、第六号証、第一二号証、第一四号証、乙第二号証並びに弁論の全趣旨によれば、(1)被告装置を備えた精密研削盤は、シリコンやガリウム砒素に代表される半導体素材の研削を高精度に、かつ迅速に行うことを目的としていること、(2)被告装置の仮受け台に載せられたウエハは、その後スウィングアームによって、研削を行うローディングステーションのセラミックバキュームチャックに搬送・吸着されること、(3)被告装置においては、前記セラミックバキュームチャックにウエハを載置するに際して、チャックの中心にウエハを位置合せする必要があること、(4)したがって、被告装置を備えた精密研削盤の右のような目的を達成するためには、被告装置によって、研削の対象物であるウエハの中心位置合せを行うことが必要不可欠であること、(5)仮受け台に中心位置合せ機能をもたせることにより、精密研削盤の一部の精度を比較的ラフに製造することができるため、製作原価をかなり低減することができること、(6)他方、右精密研削盤は、あくまでも、研削加工を主たる目的とするものであって、中心位置合せ自体を目的とするものではないこと、(7)仮受け台の製造原価は一六万円程度であり、その市販価格は三二万円程度であること、(8)遅くとも被告が昭和六一年ころには被告装置を製造していたこと、以上の事実が認められ、右認定の事実に、前記販売数量、販売価格等の諸事情を考慮すると、被告装置が前記精密研削盤に寄与する割合は、右精密研削盤の価格の一割をもって相当とするというべきである。

3  次に、本件特許権の実施に対して通常受けるべき金銭の額についてみるに、先に判示した本件発明の技術内容及び程度、被告装置を備えた精密研削盤において、被告装置の有する技術的、経済的意義のほか、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第一四号証によれば、原告は、現在、その製造販売する製品に本件特許発明を利用していないものの、将来においては、その製品について本件発明を実施する計画があることが認められ、これに、当裁判所に顕著な国有特許権実施契約書及び弁論の全趣旨を総合して考慮すると、本件特許権の実施に対して通常受けるべき金銭の額は、被告装置の売上価格の五パーセントをもって相当とするというべきである。

4  そして、被告が、被告装置を備えた精密研削盤(四〇〇〇万円)を合計二五台販売したことは、前記のとおり当事者間に争いがないから、原告の被った損害の額は、次の式のとおり、

40,000,000(円)×25(台)×0.1×0.05=5,000,000 (円)

五〇〇万円ということになる。

第四  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、右に説示の限度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとする。

(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 足立謙三 裁判官 前川高範)

物件目録 (一)

左記説明および図面に示す本件装置。

一、装置の説明

IC、LSIなどの集積回路用シリコンウエハなどを研削し、所望の厚さに仕上げる精密研削盤(商品名SVG502など)に用いる本件装置であり、第1図は本件装置の平面図、第2図は本件装置の側断面図、第3図は仮り受け台に置かれたウエハの動きを説明する図で、(1)、(2)、は平面図、(3)、(4)、はぞれぞれその側断面図であり、第4図は本件装置を含む精密平面研削盤全体の概略の平面図である。

本件装置は、仮り受け台7と、仮り受け台7上にウエハ1を載置する反転アーム6で構成されている。

仮り受け台7はベース3に固定されており、その上面中央部には水供給口8が設けられ、図示しない水供給装置により仮り受け台7の上表面に水が供給できるようになっている。また仮り受け台7の上面は、載置物であるウエハ1とほぼ同一の円形状であり、その直径はウエハ1の直径よりやや大となっている。

二、動作の説明

〈1〉 研削されるウエハ1はICなどの回路の施されている面を上方にむけてカセット2、カセット2'に収容されている。カセット2に収容されているウエハ1は、搬送ベルト4の作用を受けてストッパー5で規制される領域まで搬送されて停止する。

〈2〉 ストッパー5によって規制され停止しているウエハ1の下方(第2図aで示す位置)には反転アーム6が待機しており、反転アーム6はウエハ1の裏面を吸引保持して該ウエハ1を一八〇度反転して仮り受け台7の上方(第2図bで示す位置)まで搬送する。

〈3〉 仮り受け台7の上面に設けられた水供給孔8から水が仮り受け台7の上表面に常時供給され、該上表面からは常時仮受け台周縁から流れ落ちる水の層9を形成している。

〈4〉 反転アーム6によって仮り受け台7の上方まで搬送されたウエハ1は、その裏面を上にして仮り受け台7の表面に形成してある水の層9を圧縮して、水の層の水をはね飛ばして仮受け台面に押圧状態で載せられる。

〈5〉 載せられたウエハ1は、仮り受け台7の表面にその中心が合致するように載り、常時供給される水によって形成される水の層9の上に浮遊する。

〈6〉 このときウエハ1の中心位置が、万一第3図(1)、(3)、に示すようにずれていても、仮受け台周縁から流れ落ちる水の層9の表面張力によって水の流れに従って同図(2)、(4)、に示すようにウエハ1はその中心位置が仮り受け台7のほぼ中心位置になるように移動して水の層の面に浮遊する。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

物件目録 (二)

左記説明および図面に示す本件装置。

一、装置の説明

IC、LSIなどの集積回路用シリコンウエハなどを研削し、所望の厚さに仕上げる精密研削盤(商品名SVG502など)に用いる本件装置であり、第1図は本件装置の平面図、第2図は本件装置の側断面図、第3図(1)は仮り受け台の側断面、同(2)はその一部切欠斜視図である。第4図は本件装置を含む精密平面研削盤全体の概略の平面図でみる。

本件装置は、仮り受け台7と、仮り受け台7上にウエハ1を載置する反転アーム6で構成されている。

仮り受け台7の構造は、

イ、中間にコック(図示せず)を配した金属製水導管11を精密研削盤のベースに配した配水管(図示せず)に連通して、該ベースに直立固定してある。

ロ、前記水導管11の上端に、下面に前記水導管11の上端を嵌着する跨部2Aを形成し、上面に環状壁2Bを形成した段付凹面2Cを形成し、且つ、周側を環状壁2Bよりも大径の鍔部2Dとして形成した金属製受盤12の跨部2Aを嵌着してある。

ハ、前記受盤12の段付凹面2Cの小径凹部に前記環状壁2Bよりもやや小径で下面に前記水導管11の開口に合致する窪部3Aを形成し、且つ該窪部3Aに周面に通ずる送水孔3Bを穿設した頂面が前記環状壁2Bとの間に隙間14をもたせて嵌着して中盤13の水溜め部である内側洗浄槽3Cを形成する。

ニ、前記受盤12の鍔部2Dには、上面を受盤12の環状壁2B外周の直径と近似する直径にくりぬき、且つ受盤12の環状壁2Bと同じ高さの環状外壁5Aを形成した金属製外盤15を、該くりぬき部と受盤12の環状壁2Bとの間で嵌着し、環状壁2Bと環状外壁5Aとの間に水溜部である外側洗浄槽5Bを形成する。

また仮り受け台7の上面は、載置物であるウエハ1とほぼ同一の円形状であり、その直径はウエハ1の直径よりやや大となっている。

という構成から成るものである。

二、動作の説明

〈1〉 研削されるウエハ1はICなどの回路の施されている面を上方にむけてカセット2、カセット2'に収容されている。カセット2に収容されているウエハ1は、搬送ベルト4の作用を受けてストッパー5で規制される領域まで搬送されて停止する。

〈2〉 ストッパー5によって規制され停止しているウエハ1の下方(第2図aで示す位置)には反転アーム6が待機しており、反転アーム6はウエハ1の裏面を吸引保持して該ウエハ1を一八〇度反転して仮り受け台7の上方(第2図bで示す位置)まで搬送する。

〈3〉仮り受け台7の水導管11から導入された水は、常時中盤13の窪部3Aから送水孔3Bを通って、受盤12の環状壁2Bと中盤13外周面の隙間14から環状壁2Bで区画された内側洗浄槽3Cに供給されて内側洗浄槽3Cに溜る。

この水は常時供給されており、仮受け台7の外壁15の環状外壁5Aからは常時流れ落ちる水の層9を形成している。

〈4〉 反転アーム6によって仮り受け台7の上方まで搬送されたウエハ1は、その裏面を上にして仮り受け台7の表面に形成してある水の層9を圧縮して、水の層の水をはね飛ばして押圧状態で載せられる。

〈5〉 放されたウエハ1は、仮り受け台7の表面にその中心が合致するように載り、常時供給される水によって形成される水の層9の上に浮遊する。

〈6〉 このときウエハ1の中心位置が、万一仮り受け台7の中心位置とずれていても、仮受け台に形成された仮受け台の外盤15の環状外壁5Aから常時流れ落ちる水の層9の表面張力によって、水の流れに従ってウエハ1はその中心位置が仮り受け台7のほぼ中心位置になるように移動して水の層の面に浮遊する。

以上

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

(別紙) 特許権目録

(一) 特許番号 第一三七〇五三七号

(二) 発明の名称 位置合せ載置方法

(三) 出願日 昭和五五年五月二三日

(四) 公告日 昭和六〇年六月三日

(五) 登録日 昭和六二年三月二五日

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉特許出願公告

〈12〉特許公報(B2) 昭60-22500

〈51〉Int.Cl.4H 01 L 21/68 B 23 Q 3/00 識別記号 庁内整理番号 6679-5F 7041-3C 〈24〉〈44〉公告 昭和60年(1985)6月3日

発明の数 1

〈54〉発明の名称 位置合せ載置方法

前置審査に係属中 〈21〉特願 昭55-68471 〈65〉公開 昭56-164549

〈22〉出願 昭55(1980)5月23日 〈43〉昭56(1981)12月17日

〈72〉発明者 関家臣二 東京都港区南麻布3丁目10番19号102

〈71〉出願人 株式会社デイスコ 東京都港区芝5丁目20番10号

〈74〉代理人 弁理士 小野尚純

審査官 川上宜男

〈56〉参考文献 特開 昭53-10967(JP、A) 特開 昭53-90871(JP、A)

特開 昭54-109375(JP、A) 特公 昭47-43863(JP、B1)

〈57〉特許請求の範囲

1 載台の上面と略同一形状の薄板状被載置物をその面積の少なくとも半分以上が該載置台上に載るように載置し、該被載置物の載置と同時に或いはその前又は後に、該載台の上面のほぼ全体に亘つて液体の層を生成するに充分な量の液体を供給して該載台の上面及び該被載置物の下面に付着する液体の層を生成し、該液体の表面張力によつて該被載置物を該載台の上面の実質上中心位置に移動せしめる、ことを特徴とする位置合せ載置方法。

2 該載台の少なくとも中央部は有孔物質から形成されており、該載台の下側から該載台を通して該載台の上面に該液体をゆつくりと噴出せしめて、該載台の上面に該液体の層を生成する.特許請求の範囲第1項記載の位置合せ載置方法.

3 該載台を通して下方にエアを吸引して該被載置物を該載台の上面に吸着し、次いで該被載置物の上面に研削作業を施し、しかる後に該載台の上面に該液体の層を生成して該被載置物を該載台の上面から浮き上がらせ、次いで該載台の上面から該被載置物を取り去り、しかる後に次の被載置物を該載台の面に生成れている該液体の層上に載置する、特許請求の範囲第2項記載の位置合せ載置方法.

発明の詳細な説明

本発明は、液体の表面張力を利用して、被載置物を載台の中心位置に載置せしめる位置合せ載置方法に関するものである。

載台の中心位置にIC(集積回路)用ウエハのような薄い円板状被載置物を載置するためには、従来は載台上面に位置合せのための印を付けこれに合せて手で載置したり、または自動的に行なうには載台上面に係止部を設けこれに係止するようにして載置したりする方法がとられていた.しかしこれらの方法は印は付けたり合せたり、係止部を設けたり、係止したりするなど作業が煩雑となり、しかも後者は構造上係止部を設けられない場合には利用できないという欠点があつた。

本発明は上述の点に鑑みなされたもので、載台上面と同等かまたはやや小さい面積を有する薄板状の被載置物を載台の中心位置に載置する場合、これらの間に、これらに付着する液体層を形成しこの表面張力を利用して被載置物を載台の中心位置に移動して位置合せするようにしたものである.

以下、本発明の一実施例として載台上にシリコンウエハを吸着固定する場合を図面に基づいて説明する.

第1図、第2図において、1は基台で、この基台1は回転軸2に取付けられ、研摩、切削などの加工時に連続して回転移動できるようになつている.前記基台1には吸着固定用の載台3、3、3、3がねじなどによつて取付けられている。この場合3は、気孔率の大きな物質からなる円板状の吸着部4と気孔率の小さな物質からなるリング状の外縁部5とから構成されている.前記載台3と基台1との係合部には、エアの吸引用および洗浄液の噴出用の溝7が形成され、この溝7は導通孔8を介して吸気装置および洗浄装置に連結されている.

このような構成において、一般的研削作業時には、吸気装置を作動させると、導通孔8を介して溝7で載台3が基台1に吸引されるとともに、吸着部4内部のエアが吸引されるので、被載置部としてのシリコンウエハ9は載台3の吸着面に略一様な力で吸着固定される。この状態で研削作業が行なわれ、作業が終了すると、洗浄装置を作動させて、導通孔8を介して溝7から洗浄用の水が吸着部4内部を通つて載台3の吸着面、基台1上面へと流れるので、研削後のウエハ9を吸着面から浮き上がらせて取り去るとともに、吸着部4内面および吸着面の研削屑やごみを洗い流すものである.

ここで、未研削の新しいウエハ9’を載台3の吸着面の中心位置に位置合せ載置する作用を説明する.

前記洗浄装置から洗浄水を送り込むと、載台3の吸着面上に水がゆつくりと噴き出し、水の層10が形成される。つぎに、被載置物としての薄い円板状の未研削ウエハ9’をその面積の少なくとも半分以上が載台3上に載るようにして載置する。すると、このウエハ9’と載台3とは水で濡

され、水はその接触部分が凹んだ状態となる。そして、載台3上の外気と接している部分の水の表面張力によつて吸引され、したがつて結果としてウエハ9’は載台3の中心方向に力を受け中心位置まで移動して表面張力が全体として均合つたとき静止する.

なお、ウエハ9’を最初に載台3上に載せるときにはウエハ9’の少なくとも半分程度は載台3上と重合することが必要である.

前記実施例では、載台3を基台1よりもかなり高くした.そのため、載台3から溢れた水は、直接基台1の上を流れて排出される.これに対し、ウエハが小さなもの19である場合には、第3図および第4図の拡大図に示すように基台1’と載台3’とを略同一平面にすることが望ましい.したがつてこの場合は、載台3’の外周に排水溝16を形成し、溢れた水を排水溝16へ落し図示しない排水口から排水する。なお、第3図の基台1’の径と、第1図の載台3の径とを同じにし、相互に交換結合すると至便である.

前記実施例では、載台3、3’の吸着面上に液体層10、10’を形成した後に、ウエハ9、9’19を載置して所定の中心位置に移動せしめるようにしたが、これに限られるものではない。すなわち、ウエハ9、9’19を載台3、3’の吸着面中心位置近くに載置した後に洗浄用の水を吸着面とウエハ9、9’、19との間にゆつくりと噴き出させて、この水によつてできた液体層10、10’の表面張力によりウエハ9、9’、19を所定の中心位置に移動しめるようにしてもよい。

前記実施例では、ウエハ9、9’、19を所定の中心位置に移動させるための張力は、洗浄用の水で形成された液体層10、10’の表面張力を利用したが、これに限るものではなく、別個に吸着部4に穿設された孔や吸着部4以外のところから送り込まれた水やその他の液体で形成された液体層の表面張力を利用するものでもよい。

前記実施例では液体として水を利用したが、表面張力で移動させるには、少なくとも載台と被載置物とに付着する性質をもち、したがつて、液体の端面に凹みが形成されるものでなければならない。この性質を有するものであれば水に限られるものではない。

また、前記実施例では被載置物として薄い円板の場合を説明したが、薄い板状であつて、円に近いものであれば角状であつてもよい。

本発明は上記のように載台3、3’と被載置物の間に液体層10、10’を形成することにより、その表面張力の利用して被載置物を自動的に載台3、3’の中心位置に載置できるとともに、被載置物に傷がつくのを防止できる。

また、吸着部と外縁部とからなる吸着固定用の載台に利用した場合には、吸着部の内部および表面を洗浄するための水を液体層形成に兼用できるので極めて簡易に実施できる.

図面の簡単な説明

図面は本発明による位置合せ方法を用いた研削装置の実施例を示すもので、第1図は平面図、第2図は第1図のA-A線拡大断面図、第3図は他の実施例における平面図、第4図は第3図のB-B線拡大断面図である.

1、1’…基台、2……回転軸、3、3’……載台、4……吸着部、5…外縁部、7……溝、8……導通孔、9、9’19……シリコンウエハ、10、10’……液体層、16……排水溝。

第1図

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第2図

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第4図

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第3図

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(別紙)参考図

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特許公報

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